
第49回(2026年3月12日放送)
テーマ:「AIと自我」
今回のテーマは「AIと自我」です。まず最初に整理しておきたいのは、「生成AIに自我が生まれるのか」という話と、「AIそのものに自我が生まれるのか」という話は、本来少し違うということです。世の中ではAIと言うと、ほとんど生成AIのことを指しているように使われていますが、長年AI研究をやってきた立場からすると、その二つは少し意味が違います。
AI研究そのものは1960年代以前からあります。ただ、今のAIの原型が大きく形になったのは1980年代でした。特にアメリカ国防総省がAI研究に大量の予算を投入したことで、一気に研究が進んだ時代です。AIはとにかく計算機資源を大量に使うので、お金が入らないと研究が進みません。今でも生成AIには世界規模の投資がされていますが、当時はビジネスになるかどうかも分からない状態で研究が行われていました。AI研究をしていると言うと、「それはSFですか」と聞かれるような時代でした。
当時のAI研究には大きく二つの流れがありました。一つは、人間が理解できる形で知識を扱う「記号的AI」です。もう一つが、現在の生成AIにつながるニューラルネットワークの研究です。
今はニューラルネットワーク型が主流ですが、ハルシネーションなどの問題が出てきていることもあって、記号的AIの考え方も最近また見直され始めています。
生成AIの基本は何かというと、「次に来るものを予測する」という仕組みです。ニューラルネットワークの中では膨大な数値計算が行われているので、外から見ると中で何が起きているのか分からないと言われることがあります。ただ、それは完全に分からないという意味ではありません。
リアルタイムで全部追跡することが難しいというだけで、時間をかけて分析すればネットワークの中で何が起きているかは解析できます。
1980年代のニューラルネットワーク研究では、バックプロパゲーションを使った三層ネットワークが基本でした。当時は今のようなAIツールはありません。
シグモイド関数などの数式からすべて自分でプログラムを書いてニューラルネットワークを実装していました。そうやって仕組みそのものを作る人がAI研究者だという感覚があります。
既存のAIを使うだけでは、本来の意味でのAI研究とは少し違うのではないかという感覚です。
当時の重要な研究の一つが1988年に発表されたエルマンネットワークです。これはニューラルネットワークの中間層の状態を次の入力にコピーする「コンテクスト層」を持った構造で、時間的な文脈を扱えるようにしたものでした。この仕組みによってニューラルネットワークは「次を予測する」能力を持つようになります。
この仕組みを発展させて、さらに先を予測するネットワークを作り、内部の状態をクラスター分析したこともありました。そうすると、ネットワークの内部に自然と意味的なグループができてきます。あるニューロンの集団は名詞のような働きをして、別の集団は動詞のような働きをする。つまり、意味に近い構造がネットワークの中に自然に現れてきます。
こうした研究は1980年代の時点ですでに行われていました。よく知られている「GoogleのAIが猫を認識した」という研究は2008年ですが、ニューラルネットワークの内部に意味的な構造が生まれるという現象自体は、それより20年近く前から確認されていました。
現在の生成AIは、この「次を予測する」という仕組みを非常に大きなネットワークで実行しているものです。文章はトークンという単位に分解され、その次に来るトークンを予測することで文章が生成されます。そのため、ハルシネーションと呼ばれる誤情報もどうしても出てきます。
OpenAI自身のデータでも、かなりの割合で誤りが含まれる可能性があるという話があります。
こうした振る舞いを見ると、AIが自我を持っているように感じる人もいます。ただ実際には、予測の結果として文章が生成されているだけです。
本当に意識や自我があるのかという問題とは別の話になります。
そしてこの問題は、AI技術だけの話ではありません。物理学者スティーブン・ホーキングは晩年、「これからの研究は人間の心の解明だ」と言っていました。
宇宙論や量子論の世界でも観測者や認識という概念が重要になっていて、意識という問題は科学の中でも大きなテーマになっています。
AIが自我を持つのかという問いは、単なるAI技術の問題ではなく、意識がどのように生まれるのかという根本的な問題につながっています。
AIの進化はその問題を考えるきっかけにはなりますが、単純に「AIが自我を持つ」という話ではないというところで、今回の話は締めくくられていました。
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毎週木曜日 深夜0am - 0:30am
DJ:苫米地英人
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