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6月4日(木)放送のテーマ:「利他性について Part①」

番組から
2026/06/07

Dr.苫米地 Cosmic Radio

テーマ「利他性について Part①」

第61回(2026年6月4日放送)


利他性はなぜ生まれるのか ― 認知科学から読み解く人間の未来

今回から「利他性について」のシリーズがスタートしました。ただ、いきなり利他性そのものを語るのではなく、その背景にある認知科学やコーチング理論、そして現在取り組んでいる「苫米地定理」についての話から始まります。利他性というテーマにたどり着くための土台づくりとも言える回でした。

冒頭では、長年コーチングの世界で伝えてきた原理や原則を、数学的に厳密な定理として整理している話が紹介されました。以前から講義や著書の中で語ってきた内容も、単なる経験則ではなく数学的に証明可能なものとして体系化が進められています。現在は十を超える定理が整理されており、その中でも今回のテーマにつながる重要な定理が「定理一」、いわゆる基盤定理です。世の中には成功者による自己啓発やリーダーシップ論が数多く存在します。しかし、それらの多くは「私はこうやって成功した」という経験談にとどまることも少なくありません。その人には有効だったとしても、なぜそれが機能するのかまでは説明されていないことがあります。だからこそ経験や感覚ではなく、数学として証明できる形にしたいという思いがあると語ります。

話は認知戦の話題へと広がります。宇宙人との認知戦という少し極端な例が登場しますが、伝えたいポイントはシンプルです。どれほど高度な文明であっても、認知を持つ存在である限り認知戦は成立するということです。物理的な攻撃が通用しない相手であっても、認知の仕組みには働きかけることができる。そのため認知の理解こそが重要になるという考え方です。そして今回の中心となるのがコンフォートゾーンの話です。コーチングではおなじみの概念ですが、これを可能世界論という論理学の枠組みで説明していきます。

可能世界論では、「もしこうだったら」という仮定の世界や、「将来こうなりたい」という未来の世界も一つの現実として扱います。現在の自分だけが現実ではなく、未来の理想の姿もまた可能世界として存在しているという考え方です。例えば将来こうなりたいという目標がある時、人はその未来に高い臨場感を持つことで、その方向へ向かって行動を変えていきます。コーチングでゴール設定が重要だと言われる理由もここにあります。未来の可能世界が現在よりもリアルに感じられるようになると、人間の認知は自然とそちらへ向かい始めます。この考え方は、かつて提唱していたホメオスタシス理論にもつながっています。人は現状維持をしようとする生き物ですが、その維持される対象は現在の状態だけではありません。強い臨場感を持った未来もまた、自分にとっての現実として機能するのです。

さらに人工知能研究の歴史についても語られました。現在の生成AIは大量のデータを学習し、次に来る言葉を予測することで文章を作っています。非常に便利で優秀ですが、その中心にあるのは帰納的な推論です。一方で、かつての人工知能研究では演繹的推論が重視されていました。知識を論理的に整理し、その知識から結論を導き出す方法です。現在は生成AIの成功によってこの部分が見えにくくなっていますが、本来の知識体系や人間の思考を考える上では欠かせない要素だと説明します。

生成AIが便利になったことで論文作成や資料作成の効率は飛躍的に向上しました。しかし、人間の知性そのものを理解するためには、論理によって知識を構築する視点も必要だという話につながっていきます。今回の基盤定理では、「トータルコンフォートゾーン」という考え方が登場します。現在の自分も未来の理想の自分も、すべてを含んだ可能世界全体を一つの枠組みとして捉える概念です。そして人の認知は、そのトータルコンフォートゾーンの中心へ向かうように動いていくと説明されます。

後半では、こうした研究が生まれるきっかけとなった若い頃のエピソードも紹介されました。アメリカと日本を行き来していた時代、日本の家を「紙と木でできた家」と感じていた子どもの頃の記憶を振り返ります。アメリカの家や車と比べると、日本の家も車もずいぶん小さく見えたそうです。来日時に山手線へ乗った時のことも印象的だったと語ります。車内では居眠りをしている人がいる一方で、小説を読みながら涙を流している人もいました。その光景を見た時、人は必ずしも物理空間だけを生きているわけではないと感じたそうです。小説の登場人物に感情移入し、現実には存在しない世界で泣くことができる。つまり人は認知空間の中でも生きているということです。

これは当時取り組んでいたバーチャルリアリティ研究とも深く結びついていました。なぜ人は架空の世界に感情を動かされるのか。なぜ現実ではない物語で涙を流せるのか。その疑問こそが認知科学の出発点の一つだったと振り返ります。

今回のテーマは利他性でしたが、実際には人間の認知とは何か、未来とは何か、そして人はどのように可能世界を生きているのかという話が中心となりました。利他性は突然生まれるものではありません。人間がどのように未来を認識し、どのように他者を理解し、どのように認知空間の中で生きているのか。その土台を理解して初めて利他性の議論が始まります。

シリーズ第一回となる今回は、そのための基礎理論をじっくりと確認する回となりました。次回以降、利他性というテーマがどのように展開されていくのか。その入り口として、多くの示唆が詰まった内容でした。

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毎週木曜日 深夜0am - 0:30am

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DJ:苫米地英人

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