今年5月に放送したラッパー/トラックメイカーの Ryohuによるスペシャルプログラム「One Hour Radio」が、Ryohuの最新アルバム『Circus』のリリースを受け、第2弾としてカムバック。
音楽ライター・三宅正一、ミュージシャン・TENDREとともに、最新アルバム『Circus』の中核に迫りながら、進化を続ける”Ryohuの音楽”について語り合いました。
——最新アルバム『Circus』リリース
三宅:改めてアルバム発売おめでとうございます。どうですか?周りの反応とか、リスナーの反応も含めて...
Ryohu:やっぱり、今回はフィーチャリングゲストがたくさんいるので、そこの反応が一番大きいのかな?今回のアルバムに関しては。
三宅:そうだよね。まあ1stアルバムはソロラッパーとしてのアイデンティティーここまでの軌跡をどう示すかというような内容で。今作はいろんな人と交わるっていう意味でも、界隈が違う人たちを呼んで、それでもRyohuの作品のなかに同化するっていう意味ではこれまでやってきたことの一つのアイデンティティもあるっていう感じのアルバム。だから改めてフレッシュな気持ちで聴ける2ndアルバムだっていう感じがしましたね。
Ryohu:ありがとうございます。今回いろいろな人が入ってくれたおかげで、いろんな聴き方ができるアルバムになったかなと。だからこの曲が好き、この曲が好きってバラけてて面白いんですよね。
三宅:間違いない、分かれそうだよね。
Ryohu:前作との反応の大きな違いはそこかも。
三宅:そして、CD +7inchがいよいよリリースとなるということで。やっぱりパッケージになるとね、これまで配信で聴いていた人もパッケージで聴きたいっていう人もいるだろうし、また7インチがあるのもさすがだなと思いました。
Ryohu:今レコードのリバイバルじゃないですか。だからそういう人たちにも届いたらいいなとか思ってます。
三宅:そうだね。いろんなシーンで聴いてもらう感じになると思うし。でも、5ヶ月連続配信リリースを経て出来たからね。前回この番組にお邪魔したときは、第2弾シングルの「Real」までご紹介したというとこで、その後のことを振り返ってみると、まあ怒涛の制作スケジュールだったと思うけど...
Ryohu:まず5ヶ月連続配信リリースって言っちゃったもんだからっていうところもありましたけど、でも曲は大体見えてたんで。3つ目の佐藤千亜妃さんが初めましてで、三宅さんに連絡したんですよね。普通はレーベルやマネジメント通していくのが筋だと思うんですけど、僕はそういうのが苦手で、「佐藤さんにふらっと聞けないかなあ」なんて思っていた時に、三宅さんにメールしたんですよね。
三宅:そうそう。それで奇遇なんだけど、その翌日に佐藤さんにインタビューする現場があって話したら、その場で「嬉しい!」って。ああもうこれはちゃんと着地するなと思ったら、実際に着地してました。
Ryohu:ありがとうございます。ここに影の立役者がいました。
三宅:いや、とんでもない。でも佐藤さんみたいに初めましての人も含めて、改めて多彩なラインナップになりましたね。
Ryohu:自分1人では作れない曲を作った感はあるかも。いい意味で肩の力は抜けてたし、調和も考えたし、ちょうど他のアーティストと交わる中間地点にいけたらいいなと思ってたので、それが今回のアルバムでは勉強になる部分もあって、やってよかったなと思いました。
三宅:間違いなくRyohuだから成立したラインナップだと思う。あとビートメイカーも冨田さんはじめ、普段そこまで接点のない人たちがこのアルバムに集結してるのもRyohuの求心力のすごさだなと思いました。
Ryohu:そうですね。クレジットを見ると集まってる人たちってすごいですもんね。
三宅:いやマジで(笑)。だから「Circus」っていうタイトルが効いてくると思ってる。改めて「Circus」っていうタイトルの意味にした理由って?
Ryohu:1stアルバムがマスタリングまでいった時に、次はいろんな人を迎えてアルバムを作りたいなと思ってたのが一つ。それでその後にコロナの直前にパリコレでパリに行った時に、アンダーカバーのショーがサーカス上で行われていて、その時にいろんなものが出てくるサーカスと僕が考えていたアルバムがリンクするものがあるなと思って、そこからアルバムタイトルは「Circus」にしようと思いました。
三宅:まさに言い得て妙なタイトルだと思います。
——「Cry Now feat. 佐藤千亜妃」について
三宅:Ryohuから佐藤千亜妃さんの名前が出たとき意外性があって、どういう経緯で名前が出たの?..
Ryohu:これはフィーチャリング相手として女性ボーカルを入れたいなとうっすら思ってたときに、家で妻が家事をしながら佐藤千亜妃さんの曲をかけてたんですよ。ちょっとノスタルジックで、なおかつ1人の女性として地に足ついて立っている感じに聴こえる声で、めっちゃいいかもみたいな。佐藤さんの声に惹かれたのが一番大きいですね。
三宅:リリックのやりとりとかレコーディングとかはどうでしたか?
Ryohu:テーマだとか世界観とかの曲のイメージはもうあったので、「こういうのやりたいんです」って伝えて。それでビートができて、リリックは特に直しもなくっていう感じでした。レコーディングはおもしろかったですね。テイクを重ねてエディットしていくスタイルって、僕の周りにあまりないレコーディングスタイルだったので、そこで改めて「この人プロなんだな」と。
三宅:あーだから細かく番号使って「ここは何番を使う」みたいな。
Ryohu:それに反して僕はワンテイクでやりました。
三宅:それがいいね。だから佐藤さんの新しいEPとかでラップとかしてて、これはRyohuとの制作からのフィードバックもあったのかなと思ってインタビューしたら、「それはありました」とおっしゃってましたよ。
Ryohu:それこそラップの曲に参加するのも初めてだったと思うんで、こういう制作の仕方も彼女にとってすごく新鮮だったと思うし。
三宅:だからこれがコラボレーションの醍醐味。お互いに相互作用があるっていうのが最高のコラボレーションの形で、それが結実してると思う。
Ryohu:いやあ、本当に佐藤さんには感謝しております。
——「Money Money feat. Jeter」について
三宅:このコラボレーションも結構意外性があるというかね。これまでのキャリア的にも年上に呼んでもらうことが圧倒的に多かったRyohuが、ここで年下のアーティストを客演として招くというのも含めて新鮮でした。
Ryohu:若い子を入れたいっていうのはあったんですけど、フックアップみたいなのは嫌だったんですよね。その中でもJeterは音楽で対等に話ができるかなと思って。まずこの曲でお金の話をしたかったんですよね。いわゆるお金ってヒップホップにはよく出るワードじゃないですか。
三宅:メインテーマにもなり得ることですよね。
Ryohu:でも多くは、貧乏からリッチになるみたいな表現だと思うんですけど。
三宅:車、ブランド…とかね。
Ryohu:僕は別にリッチでもなくいわゆる一般的な家庭に生まれたので、そんなに曲でお金に対して言うことも無かった。でも子どもとか家族が出来て、お金を稼ぐ意味が出来た。子どものおむつ代を稼がないといけないだとか、生きる上でお金を稼がないといけないとシンプルに思えて、それをリリックにしました。それでJeterをここに置いた理由の一つは「若さ」。若さってお金じゃ買えなくて、かつ誰もが持っているのにいつか失ってしまうすごく価値のあるものなんですよ。
三宅:それは間違いない。
Ryohu:それでお金って生きる上で必要だよねって散々歌っているけど、僕の中では若さというお金で測れない価値もこの曲に込めたいなと思って。Jeterはお金とは違う大切な役割として、Jeterそのものが輝いているよという配置にしたというのが裏テーマにある。
三宅:いやあ、すごくいいですよね。実際、「自分対お金」というのも考える時期だろうし、そのタイミングでRyohuが呼んで自分なりのマネー論みたいなものをのせる貴重な機会だったんじゃないかという気がしますね。
——TENDREと、Ryohu。
Ryohu:ここからはスペシャルゲストの登場です。僕の友達“太郎ちゃん”ことTENDREです。
TENDRE:よろしくお願いします。ありがとう呼んでくれて。
Ryohu:変な感じ。太郎ちゃんのアルバムにコメントを寄せたっていうのも変な感じだけど、ラジオに呼ぶのもおもしろいんじゃないかと思って。
TENDRE:ラジオに呼んでもらうというのは初めてかもね。なんでもしゃべります。
Ryohu:やったぜ!
三宅:2人は長いもんね。
TENDRE:そうですね、なんだかんだ6〜7年なのか。出会い自体は下北沢Grageで十数年前とかで、Ryohuのスタジオに行き始めたのは7年前とか。
Ryohu:まだ、その頃は“TENDRE”じゃないですから。
TENDRE:ampelをやりながら、いろいろこうベースの仕事もしつつ。でもRyohuと一緒に作るっていうところから、それが軸に仕事になっていったていう感じはありますね。
三宅:だってさ、Ryohuのバックでampelがそのままつとめるっていうライブとかもあったもんね。Ryohu with ampelみたいな。
TENDRE:そうそう。あとAAAMYYYがいたりとか。下北沢でももちろんそうだし、名古屋でライブやったりとかいろいろあったよね。
Ryohu:そう、地方にみんな来てもらって。
TENDRE:WONKとかいろんなバンドがいて、あとyahyelとかいた気がする。
Ryohu:いたいた!
TENDRE:そういうイベント出たりとか、意外と時間は経ってますよね。
三宅:めちゃくちゃおもしろそうだね、そのイベント。
Ryohu:その時代、太郎ちゃんとかAAAMYYYとかにいろんな所についてきてもらってたんです。
TENDRE:むしろ、Ryohuにいろいろ連れていってもらっていた場面でもあったかなって。Ryohuがいろんな機会を作ってくれるから、僕もAAAMYYYもいろんな動きを試すことができたというのがあるのかも。
Ryohu:本当前夜ですよ。TENDRE、AAAMYYY前夜です。
三宅:もうこのトライアングルは鉄壁という感じですけどね。何か2人は出会った頃との印象の違いみたいなのはありますか?
TENDRE:違いというのはないけど、お互い大人になっていく様みたいなものが顕著に見えてる部分もあるし、無邪気な部分や音で遊ぶみたいな原点みたいなものは変わらずに、いろんな状況の中で大人の振る舞いを覚えてきたというのが、見えてきたのかもしれないですね。
Ryohu:太郎ちゃんって当時から何でもできたんですよ。それが当たり前だと思ってて。曲もこのコードが欲しいとか、こういう曲調が欲しいっていうと弾いてくれるんですよ。しかも似ないように。最近、それがスゲーことなんだって気づいたんですよ。
TENDRE:(笑)
Ryohu:他の人と一緒に作るときに、こういう曲を作りたいんだよねって言うと、まんまになっちゃう。「何か違うな、派生しづらいなあ」って。太郎ちゃんと作った時はガンガン進んでくし、お互いにアイデアも出るし。だから最近「あっ、俺すごい人とやってたんだ」っていう。
TENDRE:いやいやいや(笑)。でもこの現象って最近結構あって。みんなに「なんだかんだすごいんだよね、アンタ」みたいなことを言われるように…。AAAMYYYにも最近、「太郎ちゃんってベース普通に弾けるんだね」とか。俺は自然にそういうのをやってきてるし、別にそこを評価して欲しいつもりもないんだけど...でもそれを当たり前に使ってくれて、ちゃんとクリエィティブとしてずっと一緒に作り続けられているということは、やっぱいいなあと思う。それがRyohuの家に行ってからずっと変わってないんで。
Ryohu:やっと俺が気づいたっていうぐらいです(笑)。
三宅:Ryohuの感性が追いついた(笑)。いや~でも、太郎ちゃん「Circus」に4曲参加してどうでしたか?
TENDRE:これもやってることはそんなに変わってなくて。Ryohuが都度都度こういうニュアンスの音が欲しいんだよねとか、こういうスムースな曲を作りたいんだよねってところで、僕は着地点を知らない状態で作るんですよね。だからRyohuが「全部できたよ」って送ってくれた時に、「これはこうなったんだ」ていう風に知れる楽しさもあったし、RyohuとAAAMYYYの3人で作った曲に関してはこういうのも作れるし、これから先これを超えるようなものを作っていけたらいいよねっていういい遊びにはなった気がしますね。
三宅:改めてRyohu的にAAAMYYYとTENDREを呼んだ「Magic Mirror」ていう曲は、実はあれなんだよね3人音源で揃うのは、、、
Ryohu:はじめて?
TENDRE:だよね。まあそうなんだよね、きっと。
Ryohu:それを最初にやっちゃおうていうのが僕の目論みです。
TENDRE:やれるうちにやっておこうみたいな。
Ryohu:それで今回のアルバムの雰囲気がなんでもアリじゃないけど、ワイワイやるアルバムにしようと思ってたから、この機会にみんなでやっちゃおうと。
三宅:なるほどね。どうですか、Ryohu的に改めてこの3人で曲を作れたっていう実感は?
Ryohu:嬉しいのもあるけど、意外といつも通り。普通に友達と一緒に曲を作って楽しむっていう状況に近いかも。
三宅:一番いいね。
Ryohu:ビートも太郎ちゃんと作ったんだけど、5時間ぐらいで出来て…
三宅:マジ!?
Ryohu:そこから俺がリリックを悩み悩み…何ヶ月間かあって、結局でも考えすぎない曲になって、さっき太郎ちゃんも言ってくれたけど、音楽で楽しむっていうのを忘れないように作りました。
三宅:太郎ちゃんはその5時間でビートを作ったっていう情景は思い出せますか?
TENDRE:やるんだったらこれぐらいの感じだよねっていう温度感が決まってたから、5時間という時間すらも考えてもないぐらい思いのほか早かったし、そこに乗っかる楽器の音とかもスケッチが既に出来てた状態ではあったので。これはスピーディーにできるっていう自分たちの実力がついてきたという感じもありましたね。自分たちらしいものを点として打てた状態があって、この先いつかこういうニュアンスのものを作れたらいいよねっていう、先を見越して作れた感じもあったので楽しかったです。
三宅:だからまたこの3人でね。然るべきタイミングできっと。もしかしたらTENDREの作品かも知れないし、AAAMYYYの作品かも知れないっていう。
TENDRE:そうなんですよね。今年はAAAMYYYが僕のアルバムに入ってくれたので、次はどうなんですかね(笑)。AAAMYYYなんかな?
三宅:今だ!っていうタイミングはきっと3人の中にあるから、そこで実現を、、、
Ryohu:もう止まりませんからこの3人。
TENDRE:もうじいさんばあさんになるまでね。
——「Hanabi feat. オカモトショウ」について
三宅:これもショウくんと満を辞してですよね。
Ryohu:そうですね。ショウとは10代の頃から知ってるから、青春を思い出しながら作ったかもこの曲は。コンセプトがそこにあるかも。
三宅:これもだからRyohuのスタジオにショウくんが来てもらって?
Ryohu:そうそう。デモみたいなのを作って、ショウにギターを弾いてもらって、こういう曲にしようって言って。それを何回か繰り返したのかな。俺が勝手にギターのピッチめっちゃ上げたりして、全然違う曲にして。それに対してショウも「いいよ!」って言ってくれて、本当にお互い10代に戻った感覚で作ったかも。
三宅:実際スタジオでもそういう話になったの?
Ryohu:もちろん。プライベートでも結構遊んでるけど、改めて曲を作るっていうのは特殊だから、なんか小っ恥ずかしいし、でも楽しみみたいな話になって。制作においてはベースとかギターとかをショウ以外に頼む選択肢もあったんですけど、青春っぽい感じを出すなら、うちで全部レコーディングして全部ショウが弾いてよって話して、僕のスタジオにアンプ持ってきてエンジニアを連れてきて、DIYじゃないけど若気の至りみたいなバイブスを込めたかった。
三宅:空気もそういうものにしたかったってことだよね。
——Ryohuのこの先。
三宅:まあ気は早いですけど「DEBUT」「Circus」ときて、次のアルバムのコンセプトとかタイトルとかあります?
Ryohu:ちょっとずつ考えるようにしてます。それこそ「DEBUT」は1人でやって、「Circus」はいろんな人とやって、この2枚でRyohuらしさみたいなものを表現できたから、全部まとめて次の作品に活かしたいなっていうのが一番あるかも。
三宅:めちゃくちゃ楽しみですね。
Ryohu:30代になって、音楽に対して20代の時より悩みが少なくなった。20代の時は「どうしたらいいのかな?」という状態のなかで作ってたけど、30代になってからは「こういうの作ってみたいな」とかはずっと思ってる。
三宅:いろんな制作の方法論みたいなものをできたからだよね。
Ryohu:1stアルバム、2ndアルバムで自分自身でつけてたしがらみとか足枷を取っ払った感はすごいある。それが次の作品ではできたらいいなと思ってる段階です。
三宅:意外にすぐにできたりして。
Ryohu:だといいよね〜。
三宅:それは分かんないからね(笑)。でもまた2023年に入って新しい人との出会いとかもきっとあるからね。
Ryohu:まあ今はKANDYTOWNもやってるし、ライブも再開し始めてるから、そのなかで得たことを表現していくのかと思ってます。
三宅:楽しみにしてます!
---
10/30(日)22pm - 23pm
DJ: Ryohu
GUEST: 三宅正一、TENDRE
番組をradikoタイムフリーで聴く▼