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8月20日(木)放送のテーマ:「生成AIの日本の歴史」

番組から
2026/08/21

Dr.苫米地 Cosmic Radio

「生成AIの日本の歴史」

第72回(2026年8月20日放送)


世界のAI研究の歴史を語れば、スタンフォードやMIT、イェール、そして私(注:Dr.苫米地)がいたカーネギーメロン大学など、さまざまな研究機関の名前が出てきます。現在のAIにつながる研究の多くは、1980年代からすでに進められていました。私自身もカーネギーメロンで機械翻訳や音声通訳システムなどの研究に携わっていました。

今回は世界全体の歴史ではなく、日本がAI研究とどう向き合ってきたのかを振り返ります。

日本のAI研究史を考えるうえで大きな存在が、通産省が進めた「第五世代コンピュータープロジェクト」、ICOTです。1980年代に年間100億円から150億円規模という、当時としては非常に大きな国家予算を投入したプロジェクトでした。私もカーネギーメロン側から参加し、三田国際ビルにあったICOTには頻繁に出入りしていました。

当時の日本がAIという分野にこれほど大きな国家予算を投入したこと自体、世界に強いインパクトを与えました。

ただし、第五世代「コンピューター」という名前が象徴しているように、日本ではAI研究がハードウェアの話へ向かっていきました。これは現在の量子計算機にも通じる傾向です。

本来重要なのは、まず数学や知識技術があり、それを動かすアルゴリズムがあり、そのアルゴリズムを効率よく動かすために必要なハードウェアを設計するという順番です。

ところが日本では、目に見える「モノ」を作ることに予算が付きやすく、ハードウェアそのものが目的になりやすい。第五世代コンピューターでも、その問題が表れていました。

当時のプロジェクトでは、Prologというプログラミング言語を高速に動かす専用マシンの開発が進められました。Prologが扱うのは一階の述語論理です。

一方、人間の思考は、ある関係や概念そのものをさらに別の関係の中に組み込むような、高階の述語論理を自然に扱っています。

現在のLLMも、述語論理を明示的に教え込まれているわけではありませんが、内部のパターンの中でこうした高階の構造を成立させています。

カーネギーメロンではLISPが使われていました。LISPは数学を書くために設計された言語で、高階の述語論理を表現できます。

私から見ると、AIを進めるのであればLISPを使う方が自然でした。しかし日本の第五世代コンピューターではPrologを選び、それを世界で最も速く走らせるマシンを作る方向へ進みました。ここに、日本のAI研究が抱えた大きな問題があったと考えています。

もちろん、現在のAIが1980年代と同じという意味ではありません。当時、私たちは多層のニューラルネットワークを研究し、1989年には五層まで扱っていました。

現在はさらに層が深くなり、学習方法も大きく進化しています。そして何より計算能力が桁違いです。当時使っていた一台数千万円のSilicon Graphicsのマシンと比べれば、現在のGPUは圧倒的に高速で、それを何千、何万という単位で並べて使えるようになりました。基本となる数理の延長線上に、膨大な計算能力とさまざまな技術の積み重ねが加わったことで、現在の生成AIが成立しています。

ここで重要なのは、ハードウェアは必要ではあるものの、あくまで知識技術やアルゴリズムを実現するために必要になるものだということです。先にハードウェアを作り、そこから用途を考えるのでは順番が逆です。現在、日本で「国産AI」や「国産コンピューター」という言葉が使われる時にも、チップやOS、ミドルウェア、AIモデルまで含めて何を国産と呼んでいるのかを考える必要があります。物理的な箱だけを国内で作れば技術が国産になるわけではありません。

番組ではJavaのVirtual Machine、VMについても触れました。Javaは物理的なCPUの命令セットからプログラムを切り離し、仮想マシン上で動かすという考え方を持っています。

PrologにもWarren Abstract Machine、WAMという仮想マシンの考え方があります。第五世代コンピューターでは、こうしたソフトウェア上の論理エンジンを高速に動かすための物理的なマシンを国家プロジェクトとして開発していきました。そこでも、ソフトウェアの問題がいつの間にかハードウェアの問題へ置き換わっていったのです。

結果として、第五世代コンピュータープロジェクトは私から見れば最初から大きな制約を抱えていました。しかし、このプロジェクトには非常に大きな歴史的意味もあります。

日本が巨額の国家予算を投入してAI研究を始めたことで、アメリカやヨーロッパは強い危機感を持ち、それぞれの国で大規模なAI研究プロジェクトが動き始めました。

日本の第五世代コンピューターが、世界各国による国家規模のAI研究を加速させるきっかけの一つになったのです。

生成AIが大きな注目を集める現在、日本でも再びAIへの大規模な投資が進められています。だからこそ、1980年代の経験を振り返る意味があります。

重要なのは、目に見える巨大な設備や「国産」という言葉に引っ張られることではありません。数学、知識技術、アルゴリズムという本質から考え、その結果として必要なハードウェアを作る。この順番を間違えないことです。第五世代コンピューターの歴史は、日本のAI研究の原点であると同時に、現在の生成AI時代にもつながる大きな教訓を残しています。

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毎週木曜日 深夜0am - 0:30am

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DJ:苫米地英人

メール:cosmic@interfm.jp

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