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【Innovater’s Talk 】エデュリー菊池翔豊×三戸 Vol.3「保育園が芸能事務所と組んだわけ」

今回ご紹介するビジネスのプロフェッショナル「ビジプロ」は、19歳で起業し、地域に根差した「世界にひとつだけの保育園」を各地で運営している株式会社エデュリーの代表取締役社長、菊地翔豊さんです。

前回は、菊池さんの「子どもの主体性を伸ばす9つの要素と科学」のお話をお伝えしましたが、今回は「保育園が芸能事務所と組んだわけ」をお伝えしたいと思います。

この記事はFMラジオ、InterFMで毎週日曜20時30分からお送りしている番組ビジプロで放送された内容と、未公開部分を併せて記事化しています。ビジプロは、サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさいなどの書籍や、個人M&A塾サラリーマンが会社を買うサロンで知られる事業投資家の三戸政和が、さまざまな分野の先駆者をゲストに招いて話を聞き、起業や個人M&Aなどで、新たな一歩を踏み出そうとしているサラリーマンを後押しする番組です。番組は三戸さんとの対談ですが、記事はゲストのひとり語り風に再構成しています。

音声アプリVoicyでは、ノーカット版「ビジプロ」を聴けますので、こちらもお楽しみください。

保育園反対運動が起きるわけ

保育園は地域福祉のために存在しています。福祉とは人々を幸せにすることですから、私たちの園は地域の人々を幸せにするためにあります。

かつて、保育園の多くは地域にあるお寺に置かれていました。それは、地域の人がお金を出し合って社会福祉法人を作り、お寺に保育園を置いたからです。保育事業は地域性がすごく強い事業だったのです。

それが、2000年頃に規制が緩和されて、株式会社の参入が認められるようになり、事業性しか見ない事業者が目立つようになりました。東京だろうが北海道だろうが沖縄だろうが、地域性など関係なく、儲かるところに出すということが進んでいったのです。

私が起業した2014年前後には、各地で保育園反対運動が盛んになり、ネットやニュースで取り上げられるようになりました。なぜそんなことが起こるのだろうと調べたのですが、結論としては、地域性を無視して、コンビニのように保育園を作るようになったことが反対運動につながったのではと考えるようになりました。

だからこそ私たちは、地域性を大事にしたストーリーを、園ごとに持たせるようにしているのです。地域の特色に応じて園のコンセプトを設定し、そのコンセプトをもとに、園名や内装、デザイン、キャラクターを決めています。そして、その園を、地域の人と一緒に育てていきたいと考えているのです。「世界にひとつだけの保育園作り」というコンセプトにはそういう意味が込められています。

アソビシステムとコラボした理由

私たちがきゃりーぱみゅぱみゅさんなどが所属するアソビシステムと組んで保育園を作ったのも、地域性を重視したからです。

この保育園は原宿にごく近い千駄ヶ谷に建つ予定で、その地元で愛されているものは何かと探したとき、その地域に本社があり、原宿のカワイイ文化を世界に発信しているアソビシステムさんはどうかという話があり、社長の中川悠介さんを紹介してもらいました。

中川さんには保育園とのコラボは面白いと言ってもらえて、クリエイターの増田セバスチャンさんを紹介してくれました。そして増田さんとのコラボが実現し、「未来はカラフル」という原宿っぽいコンセプトを頂いて、ユニコーンを模した外観が特徴的な保育園ができたのです。

「未来はカラフル」というコンセプトからは、ほかの園のコンセプトも派生して生まれています。

意外とビジネスに必要な「貪欲さ」

ビジプロ名物の「本当は教えたくないビジネスに必要な3つの力」ですが、私は「意欲」「巻き込み力」「論理的思考力」の3つをあげたいと思います。それからもうひとつ、「意外と見落としがちなビジネスに必要な力」として、「貪欲さ」があると思っています。

ビジネスでは、売上1億円達成、10億円達成、100億円達成、上場など、ゴールのようなものがさまざま存在します。そんなゴールのような地点に到達したとき、多くの人は「これでいいかな」と思いがちです。でも貪欲さがあれば、1億円を達成したら次は10億円、10億円を達成したら次は100億円を目指そうと思うことができます。起業家にはそれが必要だと思うのです。

中でも、起業家は、上場したら一丁上がりと考えがちです。でも私に言わせると、それも貪欲さがなくなった結果の言い訳です。この社会は変わり続けていますから、その中での現状維持は退化です。起業家は、常に進み続ける貪欲さを持つべきなのです。

なぜ仕事をするのか

貪欲さを持ち続けるために必要なのが、その仕事をするべき理由です。ここでなぜそれをしているのか、その原点は何なのかということです。私の場合、やるべき理由は2つあります。

私はもともと、女性の社会進出を促したいという思いから保育業界に入りました。ですから、保育事業を、女性の社会進出を促進するものに変革したいというのが、ひとつ目の理由です。

また、私がこの業界に入ったのは、自分自身を変えてくれた教育というものに携わりたかったからでもあります。いま私たちは数百人の子どもを預かっています。私の中には、その子たち一人一人の可能性をどうにかしたいという思いがあります。それを思うとき、私は「明日もがんばろう」と思えるのです。

そんな「やるべき理由」というのは、起業家であってもサラリーマンであっても、やはり必要なことだと思います。

日本の幼児教育を世界に展開する

最近、保育業界でも上場するところが増えています。昨年上場したポピンズという業界でトップレベルの会社は、上場時は時価総額200億円くらいでしたが、どんどん上がって、いまは500億円を超えるまでになっています。

私は、「質の高い保育を生む仕組みづくり」を目指していますから、その文脈で、上場という手段が必要になれば考えようとは思っていますが、上場を目標とはしていません。私の目標は、ベネッセを超えたいというものです。

世界中には幼児教育を必要としている子どもたちがいます。そんな子どもたちに、日本の私たちができることはまだまだたくさんあると思っています。

私は世界中の保育園や教育機関をいろいろ見てきましたが、日本の教育機関、とくに0、1、2歳児の保育のレベルはすごく高いのです。そんな日本の保育のすごさをもっと世界に発信していきたいと思っています。

将来的には、私たちがいま作っている子どもたちの主体性を育てる保育方法をパッケージにして、世界で展開できればと考えています。

急拡大すると生まれる管理の壁

私は19歳で起業をしているので、普通のサラリーマンをしたことがありません。ですから私には、組織というもののイメージがあまりありませんでした。

そんな私が起業をして、まだ組織が小さいときは、組織全体に自分の目が届きましたし、すべての職員とも話すことができて、組織を知らないことは大きな問題にはなりませんでしたが、園が増えて組織が大きくなっていったとき、その問題が露呈しました。

組織が大きくなると、本部のスタッフを採用して、園ができないことを本部が解決したり、労務管理をしたりする必要が出てきます。要するに、組織として、保育士たちをサポートしなければならないのですが、私に組織の在り方のイメージがなく、人を見る目もありませんでしたから、採用がうまくできず、本部要員をそろえることができませんでした。

そのため、本部が解決しないといけない問題が増えているのに、それを解決できる人がいないということになってしまいました。給食室が回らないという問題が出たときには、私自身が手伝いに入ったこともありました。

そんな問題が積み上がって、本部の人たちもつらい状況になり、辞めてしまう人も出てきて、「明日からどうするのか」みたいなことにもなりました。

そのときの職員には本当に申し訳ないと思っています。あんなぐちゃぐちゃな組織では働きたくないと思っても仕方ないでしょう。大きな失敗でした。

そのときの反省で、いま本部の採用で取っている方針は、リクルートの江副浩正さんの方式で、自分より優秀な人を採るというものです。それから、組織というものをしっかりレイヤーで区切って、経営層のやるべきこと、マネージャー層のやるべきこと、担当層のやるべきことという形で示すようにしています。

また、会社の行動指針も設定しました。ミッション、ビジョン、バリュー、向かっている方向性などを設定し、この会社にどんな歴史があって、未来をどうやって作っていくのかということも含めて、年に1回、全社員が必ず受けるカルチャー研修で、私が伝えています。

たとえば、バリューのひとつとして、「志は高く、目線は低く」というものがあります。そんな行動指針を設定したことで、どういう行動が良いのか、どんな行動がエデュリーらしいのかが徹底できるようになりました。

うちの組織全員が、保育士に対して高いリスペクトを持っているのも、行動指針が浸透しているからだと思います。

問題解決を考えているのが楽しい

私は起きてから寝るまでずっと働いている感じで、休みの日にゴルフに行くくらいです。逆に、起業家の中で、仕事以外のことに時間を費やす人がいるとしたら、そっちの方が疑問です。

私は、保育園の数を増やすだけでなく、保育の新たな価値を作ろうとやっているつもりなので、毎日同じことの繰り返しではありません。良い保育を作るために、「この問題を解決するにはどうしようか」「あれをやりたいけどどうしようか」などと常に考えています。

ときには実験的なことをする必要があり、そのための準備はどうするか、どんな仮説の上にどんなことをするのかも考えたりもします。そういうことを私はあまり仕事とは思っていません。それも仕事に含めるなら、私はずっと仕事をしていることになります。

「スキマ時間ってなんだ」という感じですが、ジムには週4回行っています。私は食べることが好きなのですが、太りやすい体質なので、しっかり筋肉をつけて、カロリー消費量の大きな身体を作りたいからです。たくさん食べても体重が増えない身体作りのためにジムに通っているわけです。

それからもう1つ、ジム通いをする理由があります。身体を鍛えておかないと疲れやすくなり、ストレス耐性が弱まるからです。運動をするとストレス耐性が高まるというのは実験でも実証されています。

ノルウェーでは男性の育児休業率がほぼ100%

改正育児・介護休業法が2022年から施行され、男性の育児休業が取りやすくなります。私は男性の育児参加はすごく大切なことだと思っていますが、すごく難しいことだとも思っています。

北欧では男性の育児参加が進んでいて、とくにノルウェーでは男性の育児休業率がほぼ100%となっています。ノルウェーなどでは、男性もどんどん育児休業しようという感じで、そんな数字になっているのかと思いきや、私の友人でノルウェーやデンマークを研究している人に聞くと、実はノルウェーでも、ある程度の強制力を用いないと、男性の育児休業が進まなかったそうです。

出産を担う女性はすぐに仕事復帰はできませんからしばらく休むのは当然です。その上、男性にも育児休業をどんどん取らせて、親2人とも育児休業をするとなったら、一定の補助は出るにしても、生活費は大丈夫なのか、企業としても取らせる体制はできているかなど、いろいろな問題があります。

国として本当にその方向に舵を切るのなら、ノルウェーですら強制力が必要だったのですから、きちんと設計をして進めないと、形骸化してしまう可能性があるでしょう。ある程度、強制力があった方が進むだろうし、うまい設計がないままだと、中途半端になって、国がただポーズをとっただけ、ということになるかもしれません。

男性の育児参加で非認知能力が変わる

男性の育児参加については面白い論文があります。子どもが0歳のときに男性の育児参加が高かったグループと高くなかったグループを比べると、1歳時点での言葉の出る量が全然違い、育児参加の高いグループの子どもの方がよくしゃべるようになります。

5歳時点では、情緒的安定性という非認知能力の一部で違いが出て、男性の育児参加がなかったグループの子どもに情緒的な不安定さがみられたそうです。

これはアタッチメントネットワークという理論です。アタッチメントというのは愛着形成のことで、子どもにとっては、母親とのアタッチメントも必要だし、父親のアタッチメントも必要で、いろんな人とアタッチメント、愛着形成をすると、子どもの発達にはすごくいいというものです。

そんなデータから見ても、子どもにとって男性の育児参加は大切なことです。お父さんが小さい頃に遊んでくれることは、子どもたちの生きる上での糧になると思います。

ただ日本だと、男性が育児参加をするといっても何をしていいかわからないという人が多いようです。育児休業して、育児のための時間は確保されたけど、子どもと触れ合うわけではなく、スマホをいじったり、テレビを見ていたりでは意味がありません。

海外ではその点、しっかりオンオフをつけているイメージがあります。仕事のときは仕事、家族との時間のときは家族としっかり向き合うというイメージです。親自身がリフレッシュするために、シッターに子どもを預けて外で遊んでくることも必要と、多くの人が考えているようです。

改正育児・介護休業法が始まり、日本でも、子どもと向き合う時間は確保できるようになります。量を確保した上で、親が子どもとどう向き合うか、その質をどう上げていくかを考えることが、個人としても社会としても、日本では必要になるのかもしれません。

起業家として大切にしていること

私は19歳で起業しました。自分自身、すごく恵まれていて、すべて幸運でここまで来たと本当に思っています。

ただ、私がなぜ、そんな幸運をつかみ取れたかというと、やっぱり最初の一歩を踏み出したからです。ですから、私がこれから起業をしたいと考えている方に伝えたいのは、「すぐに始めた方がいい」「行動した方がいい」ということです。

もうひとつ伝えたいのは、「謙虚さ」を忘れないでほしいということです。私は、起業という一歩を踏み出して、車輪がだんだん回り始めたとき、それを、「自分がやった」「すべて自分の力だ」などとは思わず、それまでを振り返って、「あのとき、あの人がこうしてくれたからだ」「いろいろな人のおかげだ」と思うようにしてきました。

そんな謙虚さが必要だと思っています。謙虚さを失わないコツは、ときどき、それまでを振り返る癖をつけることです。振り返って、さまざまなことやいろいろな人との出会いがある中で、なぜいま自分がここにいるのかを考えるようにすれば、謙虚さを失うことはなくなると思います。

※この記事は、日曜20時30分からInterFMにて放送しているサラリーマンの挑戦を後押しするベンチャービジネス番組ビジプロの内容をまとめています。

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